ゲーム研究入門もどき

素人による素人のためのゲーム研究入門のようなもの(と雑記)

文献紹介ツアー② 入門編・個人的おすすめ

こんにちは、私です。誰ですか?二代目です。ゲーム関連書籍をもさもさと曖昧に紹介するシリーズ、奇跡の続編です。

 

前回はゲーム研究関連の論文や書籍を読むと必ずどこかで名前を目にする、ある種逃げられない書籍群をご紹介しましたが、今回はそこまでではないけれど入門者が読むにはちょうどよさそうだったり、引用されているのを見かける書籍についてご紹介しようと思います。私の関心が心理学寄りなので、そっち方面のものが多いです。

 

 

 

 なぜ人はゲームにハマるのか/渡辺修司,中村彰憲

なぜ人はゲームにハマるのか

なぜ人はゲームにハマるのか

 

私はこれから入りました。正直本当の素人が入り口に立つための道標としてはこれが一番見やすく分かりやすいのではないかと思います。

目次を見てもらえれば分かる通り、ゲームの定義、STGの歴史、記号学、ゲームと身体、ゲームと視点、ゲームと世界、ゲームと触覚、ゲームに夢中になる理由、難易度バランスの演出と効率予測、ナラティブ、アーキテクチャなど、多様な文系寄りの研究アプローチが紹介されています。

どの項目も読みやすく分かりやすいので、まずはこれを読んでみた自分が興味のある分野について掘り下げていく、みたいなのがおすすめです。参考文献についての記述が薄く次にどれを読むべきか分からないというゲーム研究を体現するような問題点はありますが、さしあたって関心を高めつつ楽しく読むには良書でしょう。

 

 ニンテンドーDSが売れる理由/サイトウアキヒロ

ニンテンドーDSが売れる理由ゲームニクスでインターフェースが変わる

ニンテンドーDSが売れる理由ゲームニクスでインターフェースが変わる

 

ゲームニクス」の提唱者、サイトウ・アキヒロ氏による書籍です。どうでもいいんですがペンネームに中黒が入っていると参考文献リストに書いたときに二人いるみたいになるので困りました。

ほかにも二冊ほどゲームニクスについての著書がありますが、正直どれでもいい気はします。今回ご紹介しているのはその中でもフルカラーで印刷され、図や写真などが多く盛り込まれた「見る」タイプの書籍なので、お好みに応じてどれか選べばいいのではないでしょうか。

氏の語るところのゲームニクスとは

・誰でも、マニュアルを読まなくても使い方がわかる

・誰でも、いつのまにか機能を使い込めるようになる

これらを実現するためのUIに関する技術

です。サイトウ氏の関心は主にUIに向けられてはいますが、段階的な学習というレベルデザインや心理学に通じる要素や、このゲームニクスを外部化するという今でいうシリアスゲームゲーミフィケーションにつながる視点についても言及されています。

書名に「DS」とあり、内容もDSないし任天堂のデザインのノウハウにフォーカスした内容で、一般向けデザインハウツー本としての色が濃いですが、その知見はゲーム全般にあてはめて考えられることも多く、十分に有益なものであると私は感じました。

ゲームニクス、いまいち用語として扱ってる方は多くないように見受けますが、個人的には少々提唱者の関心とはズレますが「ただのシステムでしかないものをゲームにするためのデザインのノウハウ」「ゲームをゲームたらしめる何か」であると感じているため、そういう意味でときどき用いたりします。ほかに適当な用語が見当たらないので。

何にせよゲームにまつわる様々なノウハウを学術的なアプローチではないもののある程度体系としてまとめた概念として非常にありがたい研究だと思います。体系化が進まずとっちらかってる感が否めない混沌とした日本のゲーム研究の中で、ゲームニクスを学術的に裏付けるというのも、乱立した様々な知見を整理するためのひとつの指針になるんじゃないかと思います。

 

ビデオゲームの心理学/ロフタス夫妻

ビデオゲームの心理学―子どもの才能を伸ばすその秘密

ビデオゲームの心理学―子どもの才能を伸ばすその秘密

  • 作者: ジェフリー・ロフタス,エリザベス・ロフタス,西本武彦
  • 出版社/メーカー: コンパニオン出版
  • 発売日: 1985/09
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

心理学系のアプローチだと出てきたりします。古い書籍なので今の時代から見ると少々そぐわない記述もありますが、「強化と報酬」などゲームとモチベーションについての研究としてメジャーなアプローチに早々に言及しており、先行研究としての価値は高いように思います。

ここまでに紹介した二つの書籍は完全に読み物ですが、こちらは読みやすい文章でありながら研究書的性格もあります。心理学的な視点から考えてみたい方は一読の価値あり。

ゲームにハマるワケ SCIモデル

こんにちは、私です。コンスタントに更新されると思った?私は全然思ってない。無理です。なんなら用意したものさえ全部出せるか自信がないです。っていうかこの記事がもう既に一か月ほど下書きのまま寝かされてましたが、モチベが上がる機会があったので重い腰を上げました。

さて、いくつかの記事で「文献読みたいならまずこれ」とオススメしてる「ゲーム研究の手引き」、“手引き”を参考にしたい入門者がざっくり読んでまず気になるのは「じゃあとりあえずどれ読むのがいいのかしら」ということだと思います。右も左も分からない素人としては、まずは一冊なんとなく色んなことがまとまっているような概説書や入門書など、教科書チックなものがあればそれをきっかけに深めていきやすいかな、と思うわけです。

それについて、手引きでは20ページあたりで人文系ゲーム研究の概説書としてAn Introduction to Game Studies: Games in CultureUnderstanding Video Games: The Essential Introduction (English Edition)など具体例を挙げてくれています。

しかし残念ながら例によって案の定邦訳なんぞ存在しないらしい。いやはや困ったもんで、日本語で学びたい人はとっちらかった各種研究を自力でかき集めてまとめるしかなく、それが入門者にとって要らんハードルになってる気がするのでこういうブログを始めたわけです。

で、ゲーム研究の中で重要そう/関連がありそうなトピックについて記事で紹介していくつもりで、並行して書籍紹介とかもしたいなという気持ちはあるんですが、手引きの中でゲーム心理学における重要な研究成果として紹介されている「SCIモデル」、こいつについては日本語文献が見当たらないんですよね。いやなんでよ。

というわけで、今回はこいつについて元文献から私がざっくり(ざっくり!!!)読み取った内容をご紹介する記事としたいです。

SCIモデル

 

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SCIモデル(筆者訳)

SCIモデル(Ermi & Mäyrä, 2005)とは、ゲームプレイ体験における没入を3つに分類し、それらとゲームプレイに関わる諸要素との関係を整理し、その構造を考察するためのモデルです。SCIとはそれぞれ

S:Sensory immersion

C:Challenge-based immersion

I:Imaginative immersion

の頭文字です。日本語に訳すならそれぞれ、感覚の没入、挑戦への没入、想像への没入とでも言いましょうか。

モデルとはあくまで考察の足掛かり、何かを理解することを助ける道具であってそれそのものではないことには注意が必要ですが、この図はプレイヤーが夢中になることとゲームの関係を表すアプローチの一つとしてなかなか納得感があるのではないでしょうか。

 

図を見てなんとなくピンとくる方には蛇足ですが、見方をざっくり推測するならこんな感じでしょうか。

・最も外側の構造としてプレイヤーとゲームの間には社会的な文脈がある。

・人がゲームをプレイするとき、人が持つ運動・認知・情動などの特性や動機付けによってその行為はただの物理的な動作から人にとって「意味ある遊び」になる

・プレイヤーとゲームの構造(ゲームシステムやシナリオ、ゲーム内世界)は、インターフェースを通して接触する

・ゲームの構造は挑戦への没入や想像への没入に影響する(ルール≒レベルデザイン→挑戦、世界≒グラフィックやサウンドなど→想像、など)

・インターフェースは感覚の没入に影響する

 

今回紹介したのは記事タイトルにあるような「ゲームにハマるワケ」そのものを問う研究ではありませんが、この図の中にはこれから触れたいトピックが数多く含まれています。

「ハマるワケ」については、何回かに分けていくつかの視点から先行研究を今後ご紹介するつもりです。

「これがあるからゲームにハマるのだ!」と断定するような話では間違ってもないのですが、「面白い」ってどういうことなんだろうという素朴な疑問への考え方の一例としてそれぞれお楽しみいただければ幸いです。

 

*1

雑魚英語力なので図の部分しか訳してないしちゃんと読めてません。短い論文なので必要や熱意に応じて適宜元文献をご参照ください

文献紹介ツアー① 入門編・有名どころ

こんにちは、二代目です。

他の記事で参照したりしなかったりした書籍や論文、Webサイトについて、お堅いものからエンタメ読み物まで、通読したものもふわっとしか眺めてないものも正直ありますが、素人目に見てどんな感じのものなのか、ふわっとご案内できればなと思います。ふわっと。

とりあえず第一回ということで、まずゲーム研究について調べたら絶対に逃れられないレベルで名前を見かける書籍群について主に紹介しようかと思います。

ちなみに筆者は高校卒業後英語力は衰えしか感じてないので基本的に参照先も日本語です。英語がサラサラ読めるならこんなブログより『The Routledge Companion to Video Game Studies』とか読んだほうが良いっぽいです。

 

 

ゲーム研究の手引き

https://researchmap.jp/mu8xrm15g-1918131/?action=multidatabase_action_main_filedownload&download_flag=1&upload_id=133467&metadata_id=107646

書籍じゃないしこれ自体は研究というよりその名の通り研究の手引きなんですが、とりあえず最初はこれがオススメです。文化庁の事業の一環なのでリンク先で誰でも無料で読めるのも◎

ゲーム研究の概略史やどんな領域があるかなどがコンパクトにまとまっていて、有名どころの参考文献等もたくさん載っているので、とりあえずざっと眺めてみて興味のあるものからアクセスしてみるのが入り口としては一番分かりやすいんじゃないかと思います。

 

 

ホモ・ルーデンスヨハン・ホイジンガ 

ホモ・ルーデンス (中公文庫)

ホモ・ルーデンス (中公文庫)

 

以下、逃れられないシリーズです。

どこ行っても何読んでもだいたい参考文献にいるんじゃないかって気さえする。サブリミナルホイジンガ

他にもいくつか違う訳でも出版されていますが、書店でぱらっとめくった感じでは特にどれが読みやすいとか読みにくいとかは感じなかったです。

再版され続けているのである程度大きな書店なら定価の新品も並んでいると思うので、手にとって自分でめくってみるのがいいかもしれません。

表現自体が特別難解というわけではないと思いますが、かといってスラスラ読めるというほどとっつきやすいとも思わないので、とりあえずゲームって何?の記事で紹介した遊びの定義やホイジンガの問題意識がさっくりまとまっている冒頭部だけ見てみるっていうのもアリかなと思います。

あくまで私は素人目線の紹介しかできないししないので、内容の要約や専門的な批評・レビューはせっかく「この商品を含むブログを見る」機能もあることですし他をあたって頂くこととしますが、ホイジンガの主張をざっくりまとめるならば「人間の本質は遊びである」ということです。「人間を人間たらしめる、他の動物との決定的な違いや本質は何か」という問いに対して、「英知」にそれを見出す「ホモ・サピエンス」、「工作」に見出す「ホモ・ファーベル」などの人間観に対して、ホイジンガは「遊戯」こそが本質だとして「ホモ・ルーデンス」という人間観を打ち立てたのです。その人間観に基づき、本書では宗教や政治に至るまですべての文化の起源に遊びを見出していきます。

本書は「遊び」についての理論立てであって「ゲーム」に限定されたのものではないですが、ゲームもまた遊びの一つである以上参考になる部分は多いとして現代のゲーム研究においても言及・引用される機会の多い一冊です。

 

遊びと人間/ロジェ・カイヨワ

遊びと人間 (講談社学術文庫)

遊びと人間 (講談社学術文庫)

 

 

ホイジンガとだいたいセットで出てきます。両方同時に倒さないと片方が異常な強化されるペアボスっぽい。正直私はどちらもちゃんと通読できてなくて惨敗してるので時間があるうちに改めてチャレンジしたいですね。

カイヨワはホイジンガの研究の志やその完成度を賞賛しつつも、『ホモ・ルーデンス』の遊びの定義や議論についてツッコミを入れて自らも遊びを再定義しています。

本書が引用される機会が多い理由は、その議論の重要性もさることながら彼が本書において遊びについて優れた分類法を作りだしたという点が大きいでしょう。その分類法などについてはホイジンガやカイヨワの遊びの定義とともにこちらの記事でご紹介しています。

この分類は素人目にもなかなか分かりやすく、個別具体の作品についてきれいにスッパリどれかひとつだけに分類できるとは限らないものの、それが含む遊びの要素について分析する足掛かりになりそうです。実際に『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』など、これに基づいて様々な作品を分類・分析する試みもあったりします。

こちらも『ホモ・ルーデンス』と同じくゲームに限らない「遊び」についての名著としてゲーム研究以外の分野でも広く名著とされているっぽいので、刷られ続けていて全国書店の店頭でも入手しやすいはずです。定義や分類法の要点は冒頭にまとまっているので、詳しく読みたいかは手に取ってみてから判断してもいいかも。

 

ルールズ・オブ・プレイ/ケイティ・サレン,エリック・ジマーマン

ルールズ・オブ・プレイ(上) ゲームデザインの基礎

ルールズ・オブ・プレイ(上) ゲームデザインの基礎

 

 

ルールズ・オブ・プレイ(下) ゲームデザインの基礎

ルールズ・オブ・プレイ(下) ゲームデザインの基礎

 

 

上下巻。太い。厚い。漬物石代わりになりそう。一冊でも辞書みたいな厚さのものが二冊。そして流通量が少ないのかただでさえ高い専門書がプレミア化してさらに高い。

内容以前に読むまでのハードルが高い。私は学生特権で大学図書館に購入希望出したら通って無事勝利しました。中身を見ずに買うにはなかなか勇気のいる値段だと思うので、市民図書館でも大学図書館でも、ダメ元で請求してみたり所蔵図書館訪ねたりして実物見てから購入検討した方がお財布と精神には優しいと思います。

本書は研究者に向けた学術書というよりはゲームデザイナーに向けたものではありますが、開発者が培ってきたノウハウを参考としながらも高度に理論化がなされたものとしてゲームデザイン分野の研究の基礎書としても高い評価を得ています。

手にしてみるとその物理的な質量に圧倒されてしまいますが、めくってみれば内容自体はかなり読みやすい体裁と文章で書かれているように思います。文字もぎっちり詰まっているわけではないのでガワから受ける印象よりは量も質もやさしいです。

とはいえ決して内容もページ数も薄いわけではないので、最初から最後まで読み切ろうと思うと少なからぬ根気か愛が必要ではあります。心折れて積んでしまうくらいならば、各章末にその章の内容が端的にまとまったページがあるので、それだけ一通り読んで気になる章だけ本分も読んでみる、とか、あるいは他の本や記事で気になった部分に関係する部分だけ辞書的に開いて読んでみるような使い方でもいいかもしれません。

通読できればそれに越したことはないでしょうし、私のようにふわっと読むのは邪道ではあるのかもしれませんが、せっかく面白い内容が盛りだくさんで様々な分野から先行研究を紹介してくれていたりもする本書なので、順番に読んでいくのがしんどくなったら投げ出すよりは楽しめるところだけでも楽しんだ方がお得だと思います。順番に読み切らなきゃという強迫観念を抜けば読みやすく幅広く面白い本なのは間違いないです。

 

ちなみに冒頭で言った入手難からの高騰については訳者の山本さんがご自身のツイッターで改訂および再刊に向けた作業を開始した旨を言及しています。明確な出版時期等は2019年1月現在発表されていないようですが、再刊版が発売されるのを待つというのも手ですね。

2019.3 追記

ルールズ・オブ・プレイ ――ゲームデザインの基礎 《ユニット1/4 核となる概念》

ルールズ・オブ・プレイ ――ゲームデザインの基礎 《ユニット1/4 核となる概念》

 

 

序盤だけですが今月出るそうです。電子版で高騰せず誰でもアクセスできるのは良いですね。

 

 ハーフリアル/イェスパー・ユール

ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム

ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム

 

全然内容と関係ないことで申し訳ないんですけど、今回紹介した中だと一番製本が良いというか好きです。紙のソフトカバーの単行本で、文庫本よりサイズが大きく画像や図も見やすく手触りも良い。厚みもルールズ以下略みたいなのと比べると開いておきやすい適度な厚み。

本文についても、これまで紹介した各書と同じく訳書ながら、比較的読みやすく分かりやすいものになっているように感じます。

多くのゲーム研究関連書籍は海外出版→邦訳の流れなので未だに邦訳されていない海外の影響の大きい書籍などもありますが、現在日本語で読める文献としてはこの『ハーフリアル』がゲーム研究(特に人文寄りのものはゲームスタディーズと言ったりします)の中で大きな存在感を放つもっとも最近の文献だと言ってもいいのかもしれません。

ちなみに訳者は本記事冒頭で紹介した「ゲーム研究の手引き」のPart1部分を書いている方です。

 

 

以上、有名どころを一通り紹介しました。

今回ご紹介した書籍は全て、本文中に何度かリンクを貼った前回の記事でも「ゲームや遊びの定義」関係の内容を紹介しています。必要に応じて合わせて参考にしてください。

後半ご紹介した2冊は読みやすくフォロー範囲も広めなので興味がある方が初めにふわっと眺めてみるのにもおすすめできると思います。

色んなところで引用されている文献はそれだけ重要度も高いということだと思いますが、とはいえ私やみなさんが趣味であれこれ考える分には、肩肘張らずに読みたいものを読みたい順に読みたいように読む、くらいでゆるく楽しんでもいいんじゃないかと思います。私もそんな感じだからこその【ゲーム研究入門“もどき”】です。もどきってつけとけば何でも許されるわけではないと思いますが、その点は恐縮ですが適宜ご指摘頂ければと思います。

ではでは。次があれば、また。

 

※レポート書きたい学生さんとか将来論文とか書きたいような人は(このブログは適当に入り口として活用して頂けたら嬉しいですが、)各自でちゃんと改めて一次資料にあたってもらうのがオススメです。筆者としての責任は負っても単位の保証までは責任持てないし持つつもりもないので。

Q.ゲームって何?

A.さぁ…?

 

こんにちは。二代目です。

のっけから無責任な感じでぶん投げましたが、実質初回ということで今回はゲームについて語る前に「そもそも“ゲーム”って何よ?」というありきたりだけど案外難しいギモンについて考えてみます。

そもそもお前は誰だこのブログは何だという方は、よろしければこちらの記事というかご挨拶の方もお願いします。

 

皆さんにとってゲームって何ですか?

まぁ、色々あると思います。遊びや癒しなど自分との関わりについて思い浮かべる人も、なんかピコピコしてるやつをふわっと思い浮かべる人も、はたまたボードゲームやカードゲームを思い浮かべる人、スポーツの試合を思い浮かべる人もいるでしょう。

それはそれでいいのですが、ではそれらに必ず共通する、ゲームの「定義」とも呼べるものは何なのでしょう?

 

試しに辞書でも引いてみましょうか。

ゲーム【game】

①遊戯。勝負事。

②競技。試合。

③テニスなどの試合で、セットを構成する一区切り。

④ゲームセットの略

 広辞苑 第七版(2018)

どうやらこういうことになっているようです。

ただ、これは辞書としての役割は十分果たしていると思いますが、「ゲーム」という言葉を説明はしていてもゲームそのものを定義しているとは言えない気がします。

というのも、どうやらその定義とやらはなかなか難しいようで、ゲーム研究やゲーム批評、ゲーム開発の場においても広く共有された定義は無いと言っていいでしょう。

もちろん、それぞれにそれぞれの「ゲーム」観はあるでしょうし、私にも私の「ゲーム」観があります。それらが間違っているということでは決してないと思いますが、それはあくまで私やあなたの関心や好みに基づいた個人的なものであって、必ずしも誰もが納得できるものではないでしょう。

そんな決まった答えが見当たらない問いだからこそ、冒頭では「さぁ?」とぶん投げてみました。

 

とは言っても、「何なんでしょうね…」で終わりでは話にならないので、ここはひとつこれまでの様々な研究や評論の中でなされてきた「ゲームとは何か」という議論や定義付けについて時系列順に紹介してみたいと思います。 

※長いよ!

ホイジンガやカイヨワの定義はゲームというよりもっと広く「遊び」一般の定義ですが、ゲームが遊びの一種であることから現代のゲーム定義論においても必ず引き合いに出されるので併せて紹介します。

 

 

目次

 

 

A:ヨハン・ホイジンガの定義

ホモ・ルーデンス』(1938)

オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガは、それまでの「余剰エネルギー説」や「気晴ら
し説」「練習説」など、遊びを何か他の行動の従属的な行動としてとらえていた考察を正面から否定する形で、「遊びは文化の一部なのではなく、文化そのものが遊びであり、人間の本質である」と戦争や宗教、経済などあらゆる人間の文化的活動の源泉に遊びの存在があると語りました。

その上で、遊びの形式的特徴を以下のように整理しています。

 

① 自由な活動

 命令されて行うものはもはや遊びではない 。

② 日常の生ではない

「必要や欲望の直接的満足という過程の外にある」

ここでホイジンガが挙げる欲望とは生理的な必要に迫られたものである。

③ 完結性と限定性

日常生活から時間と空間によって区別される。また、何ら実生活上の利益を生まないもの。

④ 秩序を創っている
遊びの場は秩序が統べていて、遊びは秩序を持つ。秩序こそが遊びである。

サッカーが球遊びと区別されるのはルールによるものであるように、遊びとは物質的な道具や現象ではなくそこに存在する秩序である。

⑤ 緊張
実際にやってみないと結果が分からない不確実性。競争的になればなるほど高ま
る。実力と難易度の均衡とも呼べるだろう。

 

④を見れば分かるようにホイジンガの遊び観は本人が「高級な遊び」と呼ぶルールのあ
る遊びに重点が置かれていて、子犬の遊びのようなルールのない遊びにはあまり言及されていません。

 

B:ロジェ・カイヨワの定義

『遊びと人間』(1958)

カイヨワはホイジンガの論考を受け、それまで軽んじられていた「遊び」こそが人間の
本質であるとした彼の論証を称えながらも、

「彼の著作は遊びの研究ではなく、文化の分野における遊びの精神の——もっと正確に言えば、遊びの一種類である規則のある競争の遊びを支配する精神の——創造性の探求なのである。」(『遊びと人間』p.30-31)

と、一部に瑕疵があることを指摘する形で、自身も遊びの特徴を以下のように整理しました。


① 自由な活動
② 隔離された活動
③ 未確定の活動
④ 非生産的活動
⑤ 規則のある活動
⑥ 虚構の活動 (≒模倣、フィクション)


これらの定義は概ねホイジンガのものと重なっていますが、留意しておきたいのは④について、カイヨワの主張は「利益を生まない」ではなく「生産をしない」であるという点です。

一見同じように聞こえますが、ギャンブルのように「財産を発生させはしないものの、その所有権が移動することで誰かが利益を得る遊び」の存在を肯定するカイヨワの定義は、ホイジンガ以上に遊びを広範に捉えていると言えます。
もう一点、⑤についても補足が必要でしょうか。これは「日常生活上の規則や規範と異なる規則」が存在するという意味のようです。②でカイヨワは遊びが時間的・空間的に日常生活と隔離されていることに言及していますが、⑤では意味的・倫理及び規範的にも隔離されていることに言及している、と言ってもいいでしょう。

言葉遊びのようですが、ルールのない遊びにおいては「ルールを設けない」あるいは「日常生活のルールを適用しない」という「より上位のルール」(メタルール)が存在しており、秩序的な遊びも無秩序的な遊びもその中に存在しているというのがカイヨワの主張です。

ホイジンガが「秩序」を定義に含めているのに対して、カイヨワが「規則」に相当する語を用いたのは、言葉の次元・ニュアンスの違いを表しているとも言えますね。

カイヨワは無秩序的な遊びの存在を肯定しています。

 

以上の定義の上で、カイヨワは遊びを4つの類型と秩序の有無によって分類することを試みました。

定義の話題からは逸れるますが、遊びないしゲームを分類する方法として非常に優れたものとしてよく引用されるので、カイヨワの分類を整理しそれぞれに相当する遊びを例示した表を以下にのっけときます。

f:id:IObjection:20190126143025p:plain

 

C:クラーク・C・アブトの定義

『Serious Games』(1970)

① 意思決定者によって

② ある目的に向けて

③ 競われる

④ ルールをもった文脈

 

D:エリオット・アヴェドンとブライアン・サットン=スミスの定義

「The Study of Games」(1971)

① 自発的に

② システムを制御する行いであり、

③ 不均衡な結果を作り出すために

④ 競争し、

⑤ ルールによる制限が存在する。

 

E:バーナード・スーツの定義

『キリギリスの哲学—ゲームプレイと理想の人生』(1978)

哲学者スーツは、

① 自発的に
② 不要な障害を
③ 乗り越えようと努力すること

の三点をプレイヤーがプレイヤーであるためのゲーム内での態度・ゲームプレイの定義だとしている。重ねて、その態度を形成することができる理由として

④ ゴールがあり
⑤ そこに至るまでにルールがある

ことを挙げている。言い回しや着眼点に差はあれど、非生産性や緊
張・未確定などのルドゥス的遊びの定義ともある程度の共通点が見出せる。

 

F:マローンの定義

『Toward a theory of intrinsically motivating instruction』(1981)

ゲーム研究者であるマローンは、教育現場でのゲームの効果を検証する実験を通してゲームとプレイヤーの関係性に以下の三つが特徴的に存在することに気付きました。定義ではなく「面白いゲームの特徴」だが、参考にまでにご紹介。

 

① 挑戦

 (ア)目標の存在
 (イ)目標達成が不確実であること
 (ウ)自己評価(自尊心)

② 空想

 (ア)外的空想と内的空想
 (イ)空想の認知的側面

③ 好奇心

 (ア)感覚的好奇心
 (イ)認知的好奇心
 (ウ)情報的フィードバック

 

「フィードバック」については、マローンはゲームそのものがフィードバックである「応答的空間」だとしていて、これは「定量化可能な結果」ともつながる特徴ですね。

「挑戦」は不確実性や対立の構造と密接につながっているし、「空
想」は虚構性や模倣の遊びであることなどとつながりが深いものと言えるでしょう。

 

G:クリス・クロフォードの定義

『The Art of Computer Game Design』(1984)
物語論やインタラクティビティについて幅広く論じているゲームデザイナーであるクロフォードは、ゲームに共通する要素として以下の4つを挙げている。

 

① 表現(描写・表象)

ゲームプレイに必然的に認知や解釈の過程が存在することをも示唆している。

② インタラクション(相互作用・やりとり)

ゲームシステムはプレイヤーの入力に対して何らかフィードバックを返す。それを
受けてプレイヤーはまた新たに意思決定を行う。この循環的・相互的な構造がインタラクションである。

③ コンフリクト(対立)

対立は緊張と不確実性を伴う。

④ 安全性
ゲーム内の失敗は直接日常生活に影響しない。隔絶性とも言える。

 

H:ラフ・コスターの定義

『『おもしろい』のゲームデザイン』 (2005) 

ゲームデザイナーであるコスターはゲームを「現実世界のさまざまな課題と同様に、人が習得すべきパターンを提示するパズル」と定義し、その楽しさの要素は「パターンを習得したいと感じること」であると指摘しました。

 

I:イェスパー・ユールの定義

『ハーフリアル』(2005)
① ルール

② 変数、定量化可能な結果

③ 結果内容に準じた価値設定が可能

 ポジティブな結果だけが用意されているのではない

④ プレイヤー努力

⑤ プレイヤーと結果のつながり(こだわり)

 勝つと嬉しい、負けると悔しい

⑥ 交渉可能な結果

 結果を現実世界のできごとと紐づけても、紐づけなくてもいい

 

J:ジェイン・マクゴニガルの定義

『幸せな未来はゲームが創る』(2011)

① ゴール
② ルール
③ フィードバック
④ 自発的参加

 

K:ケイティ・サレンとエリック・ジマーマン

ルールズ・オブ・プレイ』(2004)

① ルールで定められた
② 人工的な対立に
③ 参加するシステムであり
④ そこから定量化できる結果が生じるもの

この 4 点をゲームの中心的な定義とした彼らは、ゲームを語る上で核となる概念
としてもう一点、「意味ある遊び」という概念を提唱しています。これは非常に多義的で射程の広い言葉ですが、まとめるならば「プレイヤーの行為に対してゲームシステムが応答し、その関係性をプレイヤーが認識し、ゲームプレイという全体の文脈にその一連のやりとりが統合されたときに生じるもの」である。

これは他の研究者がゲームの定義に含めている「インタラクティビティ」や、後にマローンなどがゲームの特徴として挙げている「フィードバック」の存在をも包含しており、確かに「ただの"システム"を"ゲーム"足らしめる核」となり得る概念であると言えるんじゃないでしょうか。

加えて、サレンらは「ゲーム」のうち特に「デジタルゲーム」の特徴の中でデザイナーが特に優先すべきものとして以下を挙げています。

① 即座だが限られたやりとり(インタラクション)
② 情報の扱い
③ 自動化された複雑なシステム
④ ネットワーク化された通信(コミュニケーション)

 

 まとめと比較

長々とお付き合い頂きありがとうございます。おまたせしました、まとめです。正直書いてて疲れましたがせっかく書いたのでここまでご紹介した定義を比較してみましょう。

表にするとこんな感じ。(ルールズ・オブ・プレイの表を参考に加筆修正したもの)

 

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なんかこう、とっ散らかってますね。

全員に共有されてる項目が一個もない。これが冒頭で匙を投げた理由です。

ただ、それでも私たちは「ゲーム」について何らかのふわっとした認識ぐらいは持っていますよね?明確に定義はできないけれど何か近しいものはありそう、そんなゆるい集合を意味する言葉に「家族的類似」というものがあります。

家族的類似とは哲学者ウィトゲンシュタインが、言葉の意味が文脈に依存することを説明するために提唱した概念です。彼はその現象を「言語ゲーム」と称し、言葉も、そしてゲームも、すべての言語ゲーム間で共通する定義はなく、その関係性は人間の家族が「それぞれ違うがどこかしらなんとなく似ている」ような「家族的」な類似性だ、としたのです。

ゲームの定義論は現代では尽きることを知りませんが、ユールをはじめ多くの研究者がこの家族的類似観の上にゲームをゆるやかな集合として捉えて、定義以外の部分に関心を向けているようです。

現状の落としどころとしては、こんな感じなんじゃないでしょうか。

個人的にはどこまでゲームかとかよりなんでゲームは面白いのかしらとかの方が興味があるので正直定義の話はしたい人が勝手にやってくれと思っていますが、避けて通るわけにもいかないしゲームの特徴を整理することにも繋がるので一応整理してみました。

 

長々とお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

今回の参考文献のいくつかはこちらの紹介シリーズでもとりあげていますので、興味がある方は併せてどうぞ。

ではでは。気力が尽きなければそのうちまた更新したいです。

 

(雑記)

初期のオリンピックにおいては「アマチュアリズムの精神」として「スポーツを人間育成と楽しみのために行い、物質的利益を求めない」という理念があったらしいですね。これはこの記事で紹介した各定義とかなり親和的で、当たり前ですがスポーツのゲームとしての 側面を強く感じる話だなぁと最近思いました。まる。

このブログについて

こんにちは、二代目と申します。

モラトリアムのセトギワで日々ゲームをしてるオタクです。

ただのゲーマーが本業の傍ら調べたり考えたりしたことを、せっかくだから共有してみようかなとブログも始めてみました。

 

ゲームに関心のあるみなさん、ゲーム研究を志す学生からゲームのことを考えるのが好きなゲーマーまで、幅広い方々と一緒にゲームについて考える機会を作りたいと思っています。

 

私自身、ゲームもゲームを考えることも好きで学業の傍らゲーム研究という分野に興味を持った身ですが、手を出した瞬間に感じたことがひとつあります。

ゲーム研究、とっ散らかっててどっから手を付けていいか分からなくないですか?

私は分からなかったです。

 

それもそのはずで、ゲーム研究と一口に言っても開発者の視点や各学問の研究者の視点など、それぞれの関心もアプローチも多様です。

この様々な知見が乱立している状況は、ある意味非常に「総合芸術・総合技術」と呼ばれることもあるゲームらしいですが、 体系化された教科書が存在する海外に対して、日本でアクセスしやすい、日本語の「ゲーム研究の教科書」と呼べるものは存在しないのが実情で、これは右も左も分からない入門者からすればランリツどころかもはやサンイツといった感じではないでしょうか。

 

ここではそんな幅広い視点からなされた先行研究を紹介したり、他分野の研究と橋渡しをしたりと、ゲーム研究の概観図作り、その一角の整理に貢献したいなと思っています。参考書籍やサイト、論文の紹介とかもしたいですね。

 

以下注意点です。

・筆者はゲーム研究者でもゲームライターでも開発者でもない「ただのゲーマー」、つまりは素人です。

だからこそ姑息にも「ゲーム研究入門‟もどき”」などと名乗っています。 あくまで少し調べただけの素人が入り口を整備してゲーム研究への門戸を開くのをサポートすることが目的であり、既にゲーム研究の知見がある方にとっては何の得にもならないものであるはずです。

ご指摘やご助言は歓迎ですが、あくまで入門者による入門案内であり、各自の興味関心による調査や考察の「きっかけ作り」を目指すものであって、詳細な/最新の研究内容についての情報共有を目的としていないことについてはご理解下さい。

 

・趣味なのでタイトルと関係ないただのゲーマーの語りも紛れ込む気がします。

このへんは実際に運用してから考えます。誰かの役に立てれば嬉しいなという気持ちと同時に「なんか長文を吐き出す場所が欲しい」という思いもこのブログの開設理由の一つであったりもします。

あくまで趣味活動の延長かつ私物なので私的にも利用する可能性があります。ご了承ください。とはいえカテゴリーくらいは分けますし、場合によってはブログごと分けるかもしれません。未定。

加えて「ゲーム」といいつつも筆者が主にデジタルゲームビデオゲーム)のうちコンシューマゲームを愛好している手前どうしてもそのあたりを想定した物言いが多いです。アナログゲームアーケードゲームに言及する場合はそのあたりの混同が起きないように心がけたいです。

 

・なるべく情報には正確を期しますが、議論の基盤としての品質保証はできません。

入門者がゲーム研究を概観し、それ自体を楽しんだり自身の関心を深める助けになれば光栄ですが、素人である私自身の整理や解釈も混ざる都合上、学術的な議論の土台として耐えうるほどの強度を保証できないので、論文とかレポート書きたい学生さんとかはなるべく一次資料をご参照ください。基本趣味で書かれたエンタメ記事くらいに思ってください。

 

・筆者の関心で書いているのでフォロー範囲には偏りがあります。 

端的に言えば人文科学寄りの話が多いです。産業史、経済、経営、工学、プログラムあたりは微塵も触れません。サッパリ分からないので。代わりに誰か書いて。

ゲームを対象に学問することもあれば、ゲームを通して学問することもあるかなと思います。

 

ご感想はもちろんご指摘やアドバイスもお待ちしておりますので、コメントでもツイッターでもお気軽にドシドシお寄せください。 私だけでは内容に偏りも限界もあるので、皆様にお力添えいただく形で記事をより充実させていけたらいいな、などとコッソリ夢見ています。

ではでは。そんな感じで、よろしくお願いします。

 

2019.3 追記

小出しにしていくつもりがあんまりにも更新が滞っているので一応たたき台にしているものも公開しておきます。学生さんとか助けになれば幸いです。

内容自体は少しずつブログでもネタを拾っていくつもりなので、読み物としてはそちらを待っていただければ。

https://drive.google.com/file/d/1rlHJvfxxiCOVf3qGtiNWpKw9D4lBhFwg/view?usp=sharing

 

 

おまけ

ゲーム研究自体の概要については平成28年文化庁のメディア芸術連携促進事業のひとつとして複数の研究者によって編纂されたものが文化庁のこちらのページに詳しくかつ分かりやすく載っていますので、興味がある方はぜひご覧ください。

参考文献ページ入れて25ページなのでさっくり目を通すだけでも、ゲーム研究の歴史、領域、現状などなどがふわっとつかめますし、重要な参考文献もたくさん載っていますので自分でも調べてみようかなという人の入り口としては最適かと思います。

詳しくはWebで。