文献紹介ツアー① 入門編・有名どころ
こんにちは、二代目です。
他の記事で参照したりしなかったりした書籍や論文、Webサイトについて、お堅いものからエンタメ読み物まで、通読したものもふわっとしか眺めてないものも正直ありますが、素人目に見てどんな感じのものなのか、ふわっとご案内できればなと思います。ふわっと。
とりあえず第一回ということで、まずゲーム研究について調べたら絶対に逃れられないレベルで名前を見かける書籍群について主に紹介しようかと思います。
ちなみに筆者は高校卒業後英語力は衰えしか感じてないので基本的に参照先も日本語です。英語がサラサラ読めるならこんなブログより『The Routledge Companion to Video Game Studies』とか読んだほうが良いっぽいです。
ゲーム研究の手引き
書籍じゃないしこれ自体は研究というよりその名の通り研究の手引きなんですが、とりあえず最初はこれがオススメです。文化庁の事業の一環なのでリンク先で誰でも無料で読めるのも◎
ゲーム研究の概略史やどんな領域があるかなどがコンパクトにまとまっていて、有名どころの参考文献等もたくさん載っているので、とりあえずざっと眺めてみて興味のあるものからアクセスしてみるのが入り口としては一番分かりやすいんじゃないかと思います。
ホモ・ルーデンス/ヨハン・ホイジンガ
以下、逃れられないシリーズです。
どこ行っても何読んでもだいたい参考文献にいるんじゃないかって気さえする。サブリミナルホイジンガ。
他にもいくつか違う訳でも出版されていますが、書店でぱらっとめくった感じでは特にどれが読みやすいとか読みにくいとかは感じなかったです。
再版され続けているのである程度大きな書店なら定価の新品も並んでいると思うので、手にとって自分でめくってみるのがいいかもしれません。
表現自体が特別難解というわけではないと思いますが、かといってスラスラ読めるというほどとっつきやすいとも思わないので、とりあえずゲームって何?の記事で紹介した遊びの定義やホイジンガの問題意識がさっくりまとまっている冒頭部だけ見てみるっていうのもアリかなと思います。
あくまで私は素人目線の紹介しかできないししないので、内容の要約や専門的な批評・レビューはせっかく「この商品を含むブログを見る」機能もあることですし他をあたって頂くこととしますが、ホイジンガの主張をざっくりまとめるならば「人間の本質は遊びである」ということです。「人間を人間たらしめる、他の動物との決定的な違いや本質は何か」という問いに対して、「英知」にそれを見出す「ホモ・サピエンス」、「工作」に見出す「ホモ・ファーベル」などの人間観に対して、ホイジンガは「遊戯」こそが本質だとして「ホモ・ルーデンス」という人間観を打ち立てたのです。その人間観に基づき、本書では宗教や政治に至るまですべての文化の起源に遊びを見出していきます。
本書は「遊び」についての理論立てであって「ゲーム」に限定されたのものではないですが、ゲームもまた遊びの一つである以上参考になる部分は多いとして現代のゲーム研究においても言及・引用される機会の多い一冊です。
遊びと人間/ロジェ・カイヨワ
- 作者: ロジェカイヨワ,多田道太郎,塚崎幹夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/04/05
- メディア: 文庫
- 購入: 12人 クリック: 127回
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ホイジンガとだいたいセットで出てきます。両方同時に倒さないと片方が異常な強化されるペアボスっぽい。正直私はどちらもちゃんと通読できてなくて惨敗してるので時間があるうちに改めてチャレンジしたいですね。
カイヨワはホイジンガの研究の志やその完成度を賞賛しつつも、『ホモ・ルーデンス』の遊びの定義や議論についてツッコミを入れて自らも遊びを再定義しています。
本書が引用される機会が多い理由は、その議論の重要性もさることながら彼が本書において遊びについて優れた分類法を作りだしたという点が大きいでしょう。その分類法などについてはホイジンガやカイヨワの遊びの定義とともにこちらの記事でご紹介しています。
この分類は素人目にもなかなか分かりやすく、個別具体の作品についてきれいにスッパリどれかひとつだけに分類できるとは限らないものの、それが含む遊びの要素について分析する足掛かりになりそうです。実際に『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』など、これに基づいて様々な作品を分類・分析する試みもあったりします。
こちらも『ホモ・ルーデンス』と同じくゲームに限らない「遊び」についての名著としてゲーム研究以外の分野でも広く名著とされているっぽいので、刷られ続けていて全国書店の店頭でも入手しやすいはずです。定義や分類法の要点は冒頭にまとまっているので、詳しく読みたいかは手に取ってみてから判断してもいいかも。
ルールズ・オブ・プレイ/ケイティ・サレン,エリック・ジマーマン
- 作者: ケイティ・サレン,エリック・ジマーマン,山本貴光
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2011/01/29
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 92回
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- 作者: ケイティ・サレン,Katie Salen,エリック・ジマーマン,Eric Zimmerman,山本貴光
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2013/04/27
- メディア: 単行本
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上下巻。太い。厚い。漬物石代わりになりそう。一冊でも辞書みたいな厚さのものが二冊。そして流通量が少ないのかただでさえ高い専門書がプレミア化してさらに高い。
内容以前に読むまでのハードルが高い。私は学生特権で大学図書館に購入希望出したら通って無事勝利しました。中身を見ずに買うにはなかなか勇気のいる値段だと思うので、市民図書館でも大学図書館でも、ダメ元で請求してみたり所蔵図書館訪ねたりして実物見てから購入検討した方がお財布と精神には優しいと思います。
本書は研究者に向けた学術書というよりはゲームデザイナーに向けたものではありますが、開発者が培ってきたノウハウを参考としながらも高度に理論化がなされたものとしてゲームデザイン分野の研究の基礎書としても高い評価を得ています。
手にしてみるとその物理的な質量に圧倒されてしまいますが、めくってみれば内容自体はかなり読みやすい体裁と文章で書かれているように思います。文字もぎっちり詰まっているわけではないのでガワから受ける印象よりは量も質もやさしいです。
とはいえ決して内容もページ数も薄いわけではないので、最初から最後まで読み切ろうと思うと少なからぬ根気か愛が必要ではあります。心折れて積んでしまうくらいならば、各章末にその章の内容が端的にまとまったページがあるので、それだけ一通り読んで気になる章だけ本分も読んでみる、とか、あるいは他の本や記事で気になった部分に関係する部分だけ辞書的に開いて読んでみるような使い方でもいいかもしれません。
通読できればそれに越したことはないでしょうし、私のようにふわっと読むのは邪道ではあるのかもしれませんが、せっかく面白い内容が盛りだくさんで様々な分野から先行研究を紹介してくれていたりもする本書なので、順番に読んでいくのがしんどくなったら投げ出すよりは楽しめるところだけでも楽しんだ方がお得だと思います。順番に読み切らなきゃという強迫観念を抜けば読みやすく幅広く面白い本なのは間違いないです。
ちなみに冒頭で言った入手難からの高騰については訳者の山本さんがご自身のツイッターで改訂および再刊に向けた作業を開始した旨を言及しています。明確な出版時期等は2019年1月現在発表されていないようですが、再刊版が発売されるのを待つというのも手ですね。
2019.3 追記
ルールズ・オブ・プレイ ――ゲームデザインの基礎 《ユニット1/4 核となる概念》
- 作者: Katie Salen,Eric Zimmerman
- 出版社/メーカー: ニューゲームズオーダー
- 発売日: 2019/03/17
- メディア: Kindle版
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序盤だけですが今月出るそうです。電子版で高騰せず誰でもアクセスできるのは良いですね。
ハーフリアル/イェスパー・ユール
全然内容と関係ないことで申し訳ないんですけど、今回紹介した中だと一番製本が良いというか好きです。紙のソフトカバーの単行本で、文庫本よりサイズが大きく画像や図も見やすく手触りも良い。厚みもルールズ以下略みたいなのと比べると開いておきやすい適度な厚み。
本文についても、これまで紹介した各書と同じく訳書ながら、比較的読みやすく分かりやすいものになっているように感じます。
多くのゲーム研究関連書籍は海外出版→邦訳の流れなので未だに邦訳されていない海外の影響の大きい書籍などもありますが、現在日本語で読める文献としてはこの『ハーフリアル』がゲーム研究(特に人文寄りのものはゲームスタディーズと言ったりします)の中で大きな存在感を放つもっとも最近の文献だと言ってもいいのかもしれません。
ちなみに訳者は本記事冒頭で紹介した「ゲーム研究の手引き」のPart1部分を書いている方です。
以上、有名どころを一通り紹介しました。
今回ご紹介した書籍は全て、本文中に何度かリンクを貼った前回の記事でも「ゲームや遊びの定義」関係の内容を紹介しています。必要に応じて合わせて参考にしてください。
後半ご紹介した2冊は読みやすくフォロー範囲も広めなので興味がある方が初めにふわっと眺めてみるのにもおすすめできると思います。
色んなところで引用されている文献はそれだけ重要度も高いということだと思いますが、とはいえ私やみなさんが趣味であれこれ考える分には、肩肘張らずに読みたいものを読みたい順に読みたいように読む、くらいでゆるく楽しんでもいいんじゃないかと思います。私もそんな感じだからこその【ゲーム研究入門“もどき”】です。もどきってつけとけば何でも許されるわけではないと思いますが、その点は恐縮ですが適宜ご指摘頂ければと思います。
ではでは。次があれば、また。
※レポート書きたい学生さんとか将来論文とか書きたいような人は(このブログは適当に入り口として活用して頂けたら嬉しいですが、)各自でちゃんと改めて一次資料にあたってもらうのがオススメです。筆者としての責任は負っても単位の保証までは責任持てないし持つつもりもないので。